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西条市医師会報No62に掲載された私の趣味の原稿です。

私の愛蔵品

シャトー・ムートン
ロートシルト

サカタ産婦人科 坂田圭司

 

私の愛蔵品と言えるかどうかわからないが、大変大事にしているワインがある。シャトー・ムートン・ロートシルトといってボルドー格付け第一級ワインである。このワインは1972年以前は格付け第二級ワインであった。1855年に行われたボルドーのメドック地方のワイン格付けの変更がなされたのは唯一このワインだけである。また、このワインの特徴の1つにラベルに描かれた絵がある。この絵を描いた画家には、かの有名なピカソ、シャガール、ミロ、アンディ・ウォホール、堂本尚郎などそうそうたる大家がいる。ラベルを描いた画家にはこのワインを1ケース(12本)プレゼントされるらしいが、それ以上にその画家が一流であることを証明するものであり、大変名誉なことだと思う。ムートンのラベルを描ける画家はノーベル賞受賞者よりも少ない訳だから…。こうしてムートン・ロートシルトのラベル・アートは、ワインの世界にまたひとつの楽しみを加えたのである。フランスでは子供の誕生年に収穫された葡萄で造られたワインを買っておき、何か記念になるようないいことがあったときにそのワインを開ける習慣があるという。私は奮発して我が子の誕生年のムートンを1本ずつ購入した。まだ開けずにワイン用の冷蔵庫に保存してある。時々覗いてみるが、一部カビが生えかかっているのもある。「あぁ、ラベル・アートが…!」と思うが、ワインにはカビが生えるくらいの環境の方がいいらしい。そっときれいな布で拭いてまた戻すということを繰り返している。いつの日が来たら飲めるのであろうか?
いつの頃からかワインを買い集めるようになった。
ワインに魅力を感じるようになったのは、東京のあるフランス料理店で飲んだボルドーワインがきっかけであった。料理も結構美味しかったが、ソムリエの勧めてくれた赤ワインが格別美味であった。何か子供の頃に食べておいしかった菓子や果物のエキスがコロコロと音を立てるように思い出されるのである。その感覚はホテルの自室に戻ったときも続き、次の日の学会で空腹になったときにまた出てきた。こんな感覚になれる酒に私はかつて出会ったことがなかった。一度この魅力に取り憑かれるともうそこから逃れることが出来なくなってしまった。
ソムリエという職業の人と出会ったのもそのときが初めてであった。その人は私の左後ろから「ワインは如何ですか?」と尋ねてきて、フランス語でワイン名それから円価格が書いてある訳の分からないメニューを見て私が困ったような顔をしているのを感じ取るや否や、比較的安いものを指さして「これが力強く優雅でオススメです。」と言った。馬鹿にされたような悪意は全く感じなかった。「じゃあ、これを…。」と言われるままにした。ワインを開けて注ぐ動作も極めてスマートだった。そしてそのワインにまつわる話をわかりやすくゆっくりと解説してくれた。時間がたつと味や香りに変化がくることも説明してくれた。食事中もその人は私の視界から消え、遠すぎず近すぎず気配りをし、ワインや水が少なくなるとさっと注ぎ足してくれた。おまけに、帰りは店先まで送ってくれた。「この人はやさしさのプロだな!」この経験は自分の仕事にも生かせないかと思ったものである。
ワインを開けて飲むということは、香りと風味がいっぱい詰まったパンドラの箱を開けるようなものだ。音楽が耳を楽しませ、絵画や写真、あるいは映像が目を楽しませてくれるようにワインはその香りや味で感覚を刺激し、なんだか心を豊かにしてくれるものだと思う。
とはいうものの、私はその後もかなり視覚や聴力を使ってワインを集めては飲んできた。ワインのウンチクをまことしやかに語り、辟易することもしばしばである。芸能人格付けチェックみたいなことをされると真っ先にボロが出てしまうであろう。2000円くらいのワインを「これ、2万円のワインですよ!」といって立派なワイングラスに適度な温度で注がれると「確かにさすが2万円!とてもエレガントで香り高いワインですね!」と言ってしまいそうである。フランスでも「同じワインをアルザスのボトルとブルゴーニュのボトルに入れて、ワイン会に出すと、みなが誉めて空にするのは決まってブルゴーニュ…」らしい。
何はともあれ、ワインは美味しいと言って一緒に飲んでくれる人がいるからこそ楽しい。
先日、飲酒後にお産を扱っていた産科医が問題視され報道された。私は酒にそう弱いわけではないが、おちおち酔うほどにワインも飲んでいられない。
しかし、ただワインを集めるだけが趣味と思うと寂しい気もする。

WINE

(写真説明)
左から、長女(1993年)、長男(1995年)、次男(1996年)の誕生年(ヴィンテージ)のムートン・ロートシルト。ラベルの絵はバルテュス(1908-2001)、アントニー・タピエ(1923~)、グ・ガン (古千)作。
1993年ラベルは、2種類存在する。左のラベルは、アメリカでネオ・ピューリタンの反対に遭い、乳白色の何も描かれていないラベルで出荷された。 IP address location expidoms . . Amman .

広報さいじょう 平成23年9月号(PDF形式 674KB)子宮頸がんに関して

西条市医師会報に投稿した私の随筆です。 『NaMAE』

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