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西条市医師会報に投稿した私の随筆です。

NaMAE

サカタ産婦人科 坂田圭司

当院で産後1ヶ月検診と同時に行う乳児検診で時々困ることがある。

異常所見を本当に見逃していないだろうかと自分なりに細心の注意を払うことは毎度のことであるが、特に困るのは目の前にいる赤ちゃんの名前についてである。最近は見たこともない名前が多く、その漢字がどういう読み仮名なのかカルテの2号紙に書かれてない場合、1号紙を読み返して「へぇー!」と驚くことも多い。診察を終えたときには、すっかり忘れてしまっていることも多く、間違えてスラリと読んだ読み仮名で「〇〇君の成長が楽しみです。」なんて言ってしまい、失笑を買うことも少なくない。瞬間、恥ずかしく気まずい思いをする。

私の結婚式のとき、わざわざ岡山まで駆けつけてきてくださった某市医師会長先生が私の名前を「けいし君…けいし君…」と連発でスピーチされた。私は祝いの席でありながら、「本当はけいじなのになぁ…。」と心の中では何だか納得いかなかったことを思い出した。

中には間違えた読み方を気に入ってか、それを公称としている人もいる。例えば、先輩の山元先生は自らのペンネームをGENとされている。端からはカッコイイと思う。しかし、本当は「私は山本ではなく山元なんだよ!」ということを強調されているのかもしれない。

西原さんを「にしはらさん」と読むのか「にしばらさん」と読むのか、あるいは山崎さんを「やまさきさん」と読むのか「やまざきさん」と読むのか他人からはどうでもいいことのように思われるが、本人にとっては大変重要なことである場合が多い。

ある産婦人科外来に、似通った妊娠週数の2人の同姓同名患者が通院していて、1人は中絶希望でもう1人が妊娠継続を希望していた。その2人が偶然同じくらいの時間にその外来を受診し、患者を取り違えられてしまいそうになったが、事前に判明し、大事に至らぬまでも危機一髪だった事例が実際にあったという。又、最近、違う名前であったにもかかわらず、患者取り違い事故が起こったとも聞く。

こんな話を聞くと「明日は我が身…。」と身が引き締まる思いである。

テレビのあるコメンテーターが「自分の名前が呼ばれていないのに、診察室に患者が入っていくなんてあり得ないことだ。」と断言していた。

しかし、これは違う。産婦人科の場合は、患者も極めて緊張した状態で受信することも多く、いわゆる「空耳(そらみみ)」で診察室に入ってしまうことは結構あることなのだ。

最近は個人情報保護の観点から患者を番号で呼ぶ病院も多いらしい。入ってきてから名前を確認すればかえって精度が上がるという考えもあるが、やはり私は本人の名前を直接呼んで診療に臨んだ方がミスは少なく親しみを感じるのではないかと思う。

記憶力が怪しくなってきた昨今、外来診療中に名前と顔と話でピンと来ずに、内診台でその患者独特の特徴ある所見を視たとき、「あぁ、あなたでしたか!」と判ることがある。そのとき、初めて強くその患者の名前を認識するに至った。

以上のごとく、名前は本人にとってもコミュニケーションを持つ相手にとっても極めて重要なことだと思う。

コミュニケーションを持つ相手にとって煩わしいことがある反面、本人にとっては、「唯一無二」、「世界に一つだけの花」、あるいは済生会西条病院内科の寺尾孝志先生の言葉を借りて言うならば、「世界のワンピース(ジグソーパズルの妙な形をした1かけらにたとえられるが、その1つでも欠けたら完成しない重要なパーツ)」なのである。

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広報さいじょう 平成23年9月号(PDF形式 674KB)子宮頸がんに関して

西条市医師会報に投稿した私の随筆です。 『NaMAE』

西条市医師会報No62に掲載された 私の趣味の原稿です。 私の愛蔵品

広報さいじょう 2009年9月号に掲載された随筆です。(PDF形式 446KB)産婦人科救急医療に関して